帰りは

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「じいさん!帰りの乗り物はそっちじゃないでしょ!」

「あれ、そうか」

「こっちに来る前にあんなに確認したじゃない」

「はは、すまん。君はベテランかもしれんが私は初めてなもんでな。そうか、行きは速く、帰りはゆっくり、だったな…」

「…ったく、昔っからそうやってボーッとしてんのよねあんたは…」

 私は妻が文句を言いながらも差し出してくれた手を取り、暗紫色の丸っこい牛にどっこいせと跨った。

 私のものよりも皺の少ない妻の手に触れた際に、「その歳月」の相違を改めて意識し、一瞬哀感に浸ったことを彼女に伝えたら、またいつものようにからかわれるだろうか。

 8月半ばの、まだまだ暑い日のことだった。
ファンタジー
公開:19/04/29 00:00
更新:19/04/29 13:28
ファンタジー 夫婦

PURIN

超ド級の素人です。他サイト様でも書かせていただいています。
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