先行きはストック次第

「勝手に入んな」
いつもより半トーン低い声に背中を叩かれた。
「へぇ、思ったより綺麗」
都合の悪い物は、押入れとベッドの下。予想は付くけど、そこまでひっくり返す程、私も鬼じゃない。
「珍しいわね、花なんて」
机に開いたノートの画面は花畑。すっと伸びた茎と、華やかに連なるピンク。
「可愛い。何て名前？」
「ストック。単に気分だっただけ」
「あら正答（和名：アラセイトウ）」
「そのシャレ面白くねぇ。知ってて訊くな」
ストックの花言葉、『愛の結合』なのよね。つい口端が上がる。
「ちょっと見せて」
「あ、おい！」
マウスを左手でクリック。スクリーンセーバーの下、サプライズが仕込んで……
「……ない」
期待外れ。思ったよりがっくり。
あれ？そう言えば、彼は右利きのはず。
「勝手に先行くな」
左手に左手が乗る。マウスが移動し、重なった薬指でダブルクリック。
サウンドストックから『結婚行進曲』が流れた。