ぶつかった男

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 深い深い地下鉄から地上へと上がる階段でのこと。
 心急いでいた俺は、帽子をかぶった男と派手にぶつかった。
 俺の花束と男の帽子が同時に落ちる。思わず舌打ちすると、男はからかうように笑った。

「今、奈々子に会えなくしたぞ」

 え? 何だって? 奈々子は一生俺のそばにいる人だぞ。今からプロポーズだぞ!
 人目を気にして心の中で怒鳴る俺。
 その間に男は消えた。

 ただ、ぶつかっただけなのに。
 それだけですべてが終わった。
 あれから一度も奈々子に会えないまま、今、「私」の一生が終わろうとしている。

 最後の時。「私」はあのとき落とした帽子をやっと拾った。
ホラー
公開:19/04/28 16:55
更新:19/04/29 18:49
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二森ちる( 瞑想と妄想の森で )

二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。

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