母と遊ぶ

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母は10人兄弟の末っ子だ。歳が離れていたため、兄弟たちの足手まといになっていたらしい。
「大きな籠をかぶせられてね。もがいているうちにお姉ちゃんたちは走っていっちゃうの」
何度もその話を聞かされた。そしてそのたびに幼い母がかわいそうで涙していた。
『幼児化VR』が開発されたと聞いて、私は全財産をはたいて購入した。母から聞いていた故郷の景色をインプットする。そして母と私はゴーグルをかけた。
幼い姿の母がそこにいた。傍らには大きな籠。そばで一人で泣いていた。
「どうしたの?」声をかける。
「お姉ちゃんたちが行っちゃったの」
「じゃ、わたしと遊ばない?」
「あなた、誰?」
「わたし?わたしはね、あなたの分身」
「分身って何?」
「ふふ、大きくなったらわかるわよ。大人になったらね」
不思議そうな顔をしながらも遊び相手ができた母はうれしそうだった。

「ずっと一緒にいようね」
指切りげんまんをした。
その他
公開:19/04/29 13:25
スクー 幼児化VR

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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