風のひと

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「君の名前は?」
男は風のように囁いた。
「I'm Banksy」
北関東のとある町。この町の道の駅では地元の小麦を使ったピザが人気だ。
私はここで働きながら油絵を描いて暮らしている。
彼は毎日やってきた。ランチには少し遅い午後。いつも決まって味噌味のピザをひとつ。JAの帽子を被っているが何をする人かは誰も知らない。彼は英語で話し、私たちは日本語で返す。少しある違和感も慣れてしまえば日常だ。
ロビーにあるテレビは、バンクシーの作品が発見されたと報じている。
その日は珍しくピザが売り切れて、彼は何も食べずにその映像を眺めていた。
申し訳ない気持ちで私が話しかけると、彼は照れたように出ていった。胸騒ぎがした私は彼を追った。
少女の手を離れた赤い風船が上空を流れてゆくのが見える。
「君は本当に…」
「はぁよすべぇ。おこんじょべするのぉ。ばんくしぃなおめぇ」
やられた。
これは英語じゃねえ。
公開:19/04/26 21:45

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