もうひとつの桃園の誓い

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漢朝末期の中国。劉備、関羽、張飛という三人の青年が義兄弟の契りを交わす乾杯をした。

「我ら三人、生まれた日は異なれど死すときは同じ日に!」
桃の花が爽やかな春風とともに舞い、心地よい酔いが大志を抱く三人を盛り上げる。世に言う桃園の誓いである。

「おらも混ぜてけろ」
鼻水を垂らした童が割り込んできた。

あっちに行け、追い払おうとする張飛を関羽がたしなめ、劉備は笑って童の頭を撫でた。

「面白い小僧だね。お前が大人になったら仲間に入れてあげるから、今日は諦めて母さんのところに帰りな」

相手にされない童は悔しそうに呟いた。
「おら勉強して偉い軍師になるからな。絶対だぞ」
「そいつはいいね。その時は俺たちの方から迎えに行くよ」

「亮ちゃん、ご飯よ〜」
母親に呼ばれた童の名前は諸葛亮孔明。のちに劉備が三顧の礼をもって軍師に迎える男である。誰も覚えちゃいない、もうひとつの桃園の誓いであった。
青春
公開:19/04/26 20:04

よしお

400文字に収めるのに四苦八苦していますが、いろいろなジャンルにチャレンジしたいです。

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