内臓二十物語 第十九臓(卵巣)

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「ちょうちん頂戴」
仕事帰り、彼女と適当な焼鳥屋に入る。
「なに?ちょうちんって」
「鶏の卵巣と卵管を串に刺して焼いたものよ」
焼き上がったちょうちんを手に取り、「ほら」と言った。
「ちょうちんみたいでしょ」
オレンジ色の玉が、串に巻かれたひもからぶらんと垂れ下がる。
「暗闇の中、オレンジ色の灯りが見えるの。ちょうちんをもった雌鶏が立ってんのよ。たくさんの子供達が道を失わないようにこっちだよ~って」
「たくさんって卵に辿り着けるのは一匹だろ」
「鶏は違うのよ。鶏の精子は卵管内でしばらく生きてられるのよ」
「へえ」

店を出て。人通りの少なくなった道を歩く。こんな暗かっただろうか。
「おい」
先を歩く彼女の手にちょうちんがぼんやりと光っているのが見えた。
「こっちよ。なかなかみんなたどり着けないんだから」
「え?」
後ろからたくさんの俺が走ってきていた。俺は必死の形相でちょうちんを目指した。
その他
公開:19/04/26 19:50
内臓二十物語 第十九臓(卵巣) 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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