水に踊る

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ちゃぷちゃぷちゃぷ。
温かく狭い水の中でうっとりしていた。時折薄眼を開けてぼんやり光を感じたり、規則正しいリズムや男か女かわからない歌声を聴いていた。
突如パンと何かが割れ、水流と一緒に転がり出た。一転してそこはひんやり薄暗い水の中で、冷たい、と声を出すと思いのほかに大きな啼き声となった。
パクパクと酸素を求め、背ビレも尾ビレもない身体を動かそうとするが、錘のように沈んでいく。
「動かそうとするんじゃない。身体が動くに任せるのさ」
周りでゆらと踊るものたちに教えられ、頭を空っぽにすると、身体が勝手に踊り出した。小さな細胞一つひとつが意志を持って踊っていた。なんだ、自分は小さなものたちの集合体だったのだ。
黒い影が差し、見上げると大きな何かがそこにいて、逞しい手が私を掬い上げた。
それが良いものか悪いものかわからなかったが、掌で横たわる私の身体は、新しい踊りを魅せつけるように妖しく畝った。
その他
公開:19/04/27 21:39
HIRUKO 身体

むう( 地獄 )

芸術なんてその日暮らしよ/人間界で書いたり読んだりしてる骸骨/読書、音楽、舞台、昆虫、ガチャが好き/松尾スズキと大人計画を愛する/ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集人/そるとばたあのマネージャー

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