人面花（天）

「天使が三度キスした花なのよ」
そう言って、彼女が同じ様に唇を寄せたパンジーが、頬を染めた顔に見えた。
「人面花とも言うな」
そう返して、探しておいたクローバーを左手へ押し込み、四度目を奪った。フランス語ではパンセ。思索の花。いいだけ悩んだくせに、不意打ちで叶えた恋。若さに任せて突っ走り、家も故郷も何もかも捨てさせ、挙句に幸せにしてやれなかった。
――何もかも。
パンジー。キューピッドの愛の矢が傷付けた花。たくさんある伝説で、多分これが近かった。思い出の品も、写真一つも残さなかった最初の結婚。

真っ白に萎れた彼女の横、皺くちゃで赤い、猿みたいな顔が喚いていた。紅葉月の終わり、秋のパンジーが出回るには早く、何度目か忘れたキスは、抹香と消毒薬と、微かな乳臭さに吐き気がした。悪魔の頭は、この場面の文章変換を淡々と模索中だった。
今までで一番まともな受賞の通知が、地獄の招待状にしか見えなかった。