内臓二十物語 第十六臓(陰嚢)

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母ちゃんの仕事は袋縫いだ。手縫いでチクチクと毎晩夜中まで、奇妙な色形の袋を縫っている。
「母ちゃんはねえ、神様のお仕事のお手伝いをしとるんよ。これはすごく大事なものを入れる袋だからね。丁寧に丁寧に縫わないといかんのよ。ほころびがあったりしたら大変だからね」
母ちゃんは、細い目を一層細めながら針に糸通す。
「父ちゃんの婆ちゃんがあんたの父ちゃんの袋を縫ってん。母ちゃんはあんたの袋を縫ったんよ。一生もんだ」
と言って笑った。
うちには袋を受け取りに、いろんなもんがやってくる。夜更けにトントンと家の戸を叩くものがあって、戸を開けると化物みたいに大きな狸が立っていた。
「出来とるかいな」
「はいはい」
母ちゃんは出来上がった袋を渡す。狸は僕の顔を見て、
「お前の母ちゃんの腕は確かや、たくさんの子狸が今年も生まれたでな」
と言いながらニコニコと帰っていった。
おっきな袋がぶらんぶらんと揺れとった。
その他
公開:19/04/24 20:20
内臓二十物語 第十六臓 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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