内臓物語 第十ハ臓(五臓六腑)

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暑い。蒸し暑い夜だ。夜の海を散歩していた。どこからか、祭り囃子が聞こえる。ドンドンと響く太鼓の音に、踵がリズムをとった。体の中から、不思議な歌のようなものが聴こえてくる。

~五臓六腑が欲しがるからよ。わたしゃ脳が足りないからさ、五臓六腑の言う通り。
あんたの声をいただこう。~

体の中から響く声に合わせて、僕の喉が僕の意志を無視して、歌を紡ぎ出した。

~五臓六腑に染み渡る。あんたの声が染み渡る。あんたの言葉が染み渡る。私はあんたの言葉をもらい、あんたの声で歌いだす。~

ゴボッと何かが胸から上がってきて、グエと大きな塊を吐き出した。喉から内臓の塊が出てきて、歌いながら海に向かって這いずり出した。

~あんたはただの躯になって、ぽっかり開いた口からは、空気の漏れる音しかしない。~

僕はヨロヨロと内蔵の姿をした生き物を追いかけ、そいつが海に消えるのを、空っぽの腹を抱えて呆然と見ていた。
その他
公開:19/04/25 23:48
更新:19/04/27 09:21
内臓二十物語 第十ハ臓(五臓六腑) 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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