人面花(人)

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結婚しても、もう子供は作らないと言った。
同じ運命を辿るなんて妄想だ。自分を納得させようと足掻けば足掻くだけ、真っ白く萎れた、最初の妻の姿が棘を刺した。面影の濃い息子を見るにつけ、刺は胸に喰い込んだ。けれど手を伸ばさずにおくには、既に彼女の存在が大き過ぎた。
暫く迷って、頷いた彼女に、代わりの約束をした。
この先過ごす時間と同じ数、君に物語を贈ろう。
毎日一つ、新しい世界を創って、二人で読もう。子供を慈しむ様に、物語を生み育て、見守り、共に生きようと。

――二十七年と百二十五日。
紙を積み上げれば腕の長さを越す、万の物語。
下の方は色が変わり、皺が寄り、鉛筆も霞んで読み難くなった。あと何枚綴れるか判らないが、彼女の淹れてくれた茶を傍らに、今日も机に向かう。
朝陽を浴びて、彼女の名前と同じ、菫色のパンジーが窓辺に笑う。
午後には息子達が遊びに来て、『親父もすっかり爺だな』と言われるだろう。
その他
公開:19/04/25 16:04
更新:19/04/25 19:44
※こちらはフィクションです。 以前に書いたシリーズ作 『フラワーネットワーク』の 書ききれなかったこぼれ話。 私、創樹の話ではございません。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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