春の雪

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長女の指先が白くなっていた。
「お母さん、雪みたいなの、ついちゃった」
春に雪でも降っていたかのように、長女は訳が分からず戸惑っていた。
「紋白蝶に触ったんでしょう」
「ちょうちょ?」
「鱗粉よ。蝶々の羽にはね、濡れちゃっても飛べるように粉みたいなうろこがついているの」
「おさかなみたいに?」
「そう。鱗粉がないと蝶々は飛べないの」
長女は悲しそうな顔をして白い指を見た。
「じゃあ、わたしがつかまえたちょうちょは、とべなくなっちゃったの?」
「大丈夫。ちょっとくらいなくても飛べるから」
長女は悲しそうな顔から一変、笑顔になった。
「そっか。ちょうちょはちょっとのことじゃへこたれないんだね」
そう言うときゅっと唇をひき結んだ。
「わたしも、ちょっとのことでへこたれない!」
優しい長女は少し成長した。
桜が散っている。鱗粉は桜の花びらの形をしてるらしい。春の雪は私たちにあたたかく降った。
その他
公開:19/04/22 22:22
月の音色 春の雪 月の文学館

砂塵

読んでいただきありがとうございます。
話のおもしろさ云々はひとまず置いといて、とりあえず一本完結させることを重視して書いてます。
朗読ラジオ「月の音色リスナー」です(^o^)/
低浮上中なのでコメント返し遅れるかもですが必ずお返しします。

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