師匠と弟子

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師匠が竹刀を中段に構える。
相変わらずもの凄い気迫だ。こうして向かい合っているだけで、膝から崩れ落ちそうになる。
でも、今日は引くわけにはいかない。

師匠の下で剣道を習い始めたのは高校に入ってすぐだった。以来今日まで、時に厳しく時に優しく、師匠は俺に剣の道を叩き込んでくれた。
俺は今年大学を卒業し、社会人となった。
この日をずっと待っていた。今まで師匠から教わったことの全てを、俺の思いの全てを、師匠にぶつけるんだ。
行きます、師匠!
「ィヤアアァァ!」

試合はあっという間に終わった。結局一本も取れないまま俺は惨敗した。
「まだまだ」
面を外した師匠は、さっきまでの迫力が嘘のような優しい表情で言った。
「師匠!」
俺は、両手をついて頭を下げる。
「俺、もっと強くなります。もっと強くなって、立派な社会人になります。だから師匠」
顔を上げ、真っ直ぐ師匠を見据える。

「俺と結婚して下さい」
その他
公開:19/04/22 18:32
更新:19/04/22 22:39

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