焚書館
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その図書館に、廊下を隔てて別館のある事は知っていた。
借り手のない専門書か、寄贈本や郷土史か。物心つく頃から通いながら、入ろうと思った事はなかった。
普段通り、カウンターで手続きを済ませた際、煙が匂った。硯で墨を磨る時に似た、心が鎮まる匂い。廊下の奥を前掛けの端が折れた。
『焚書館』と掠れた金字が彫られた扉の中。うず高く積まれた本の山を、老人が焼却炉へ放り込んでいた。
「何してるんですか!」
「本送りです」
理解出来なかった。反射的に伸ばした手が当たり、革表紙が崩れて塵を撒いた。
「人と同じく、本にも限りがある。失くした本、捨てられた本、忘れられた本、歴史が葬った本。そうして命を終えた本を天へ返す事で、新しい物語が生まれるのです」
黄ばんだ指の示す扉を抜け、庭へ出る。墨色の煙は透明な文字の輪舞に変わり、真昼の月へ融けていく。
向かい風が飛ばした一文字が掌に跳ね、始まりの頁を捲る音がした。
借り手のない専門書か、寄贈本や郷土史か。物心つく頃から通いながら、入ろうと思った事はなかった。
普段通り、カウンターで手続きを済ませた際、煙が匂った。硯で墨を磨る時に似た、心が鎮まる匂い。廊下の奥を前掛けの端が折れた。
『焚書館』と掠れた金字が彫られた扉の中。うず高く積まれた本の山を、老人が焼却炉へ放り込んでいた。
「何してるんですか!」
「本送りです」
理解出来なかった。反射的に伸ばした手が当たり、革表紙が崩れて塵を撒いた。
「人と同じく、本にも限りがある。失くした本、捨てられた本、忘れられた本、歴史が葬った本。そうして命を終えた本を天へ返す事で、新しい物語が生まれるのです」
黄ばんだ指の示す扉を抜け、庭へ出る。墨色の煙は透明な文字の輪舞に変わり、真昼の月へ融けていく。
向かい風が飛ばした一文字が掌に跳ね、始まりの頁を捲る音がした。
ファンタジー
公開:19/04/22 23:00
更新:19/07/18 11:27
更新:19/07/18 11:27
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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