雲の中。宇宙のハラワタ。

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 目を開くと、二階の窓ガラスの真ん中が、バスケットボールでもぶつけたかのように大きく割れて不定形な穴が開いてるのが、ぼんやりと見えた。
 周囲に残った、尖ったガラスの縁取りに映り込んでいる雲は異様なまでに白く、それが真ん中でスッパリと切り取られて、黒々とした内部を曝け出しているところは、まるで熟練した外科医が執刀したかのようだった。
 春の陽光は、割れた硝子の破片を受けたビニール製の日除けに絡まっていて、私の身体を照らしてはくれなかった。
 そこに南風が吹き降ろしてくる。途端に辺りに充溢する春特有の濛気の、その何という臭気! それは、魚を捌くときに嗅ぐハラワタの臭いに酷似していた。
「真っ白な雲を切り裂くと黒い宇宙があって、それは魚のハラワタの臭いがする」
 私は、私の視界を周辺から蝕んでいく宇宙を凝視しながら、自分の腹の中に宇宙はなかったが、ハラワタはちゃんと詰まっていたのだと思った。
その他
公開:19/04/23 18:59
更新:19/04/23 19:19

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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