涼しさを呼ぶ心

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「博士、今年の夏も猛暑でしょうか」
喫茶店「箱庭」で、次郎君は押上博士に尋ねてみた。
「どうかな」
「昔に比べて、現代は平均気温が上がってるようですしね」

博士は答えた。
「数値上はともかく、たぶん私たちの心が複雑になり過ぎた事が、問題なんじゃ」
「心が、ですか」
「うむ。たとえば江戸の頃の人は、もっと単純な心だった。夜の闇を見て怖いと思う心。それが色んな涼しさを、受信できたのだ」

「単純な心..」
「そう。常に心を落ち着かせて、素直に暮らす。その為に静かな曲や穏やかな音楽を聴く事も、よいじゃろう」

博士にそう教わってから、次郎君はいつも素直な気持ちで過ごそうと努めた。
そしてとても「江戸的」な心を備えることができた。

夜に遠くのお寺の鐘の音を聞いた時。夜風に鳴る静かな風鈴の音を耳にした時。
彼はそこに必ず、たたずむ幽霊の姿が見えるようになったのだ。

これで、夏の暑さも怖くない。
ホラー
公開:19/04/20 22:24
喫茶店 押上博士

tamaonion( 千葉 )

雑貨関連の仕事をしています。こだわりの生活雑貨、インテリア小物やおもしろステーショナリー、和めるガラクタなどが好きです。

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