にんじんしりしり

「人参しりしりにして食べなさい」
そう言って人参を差し出す母を私はまじまじと見つめた。
「しりしりって何？」
「え、しりしりしない？」
しない。むしろしりしりってなんだ。しりしり、尻々。私の脳内は『？』と『尻』で埋め尽くされた。
「ほら、あれ。細かくした人参と卵を一緒に炒めたやつ。沖縄の料理だよ」
母の解答に、私は衝撃を受ける。
【アレ、人参しりしりって名前なのか】
しりしり。なんでしりしりなんだ。頭の中にシーサーと首里城がやってくる。しりしり。しゅりしゅり。すりすり……。
【摩り下ろすから、すりすりか！】
私は膝を打ち、即座に人参しりしりをネット検索した。私が作るものとは違う、美味しそうな人参しりしりが顔を出す。
私の中の適当料理が、レシピの一つとして歴史と意味を確立した。それは混沌としたところから生まれた星に名をつけたような、奇妙な感動だった。
以上が今日一番の驚きだった。
しりしり。