忘却
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忘れられた記憶はなくなる。僕は何かを忘れると、大抵はその事を忘れているという事自体を思い出せなくなる。何かを忘れてしまったと思い知らされるのは、テストの解答とか、誰かに会って名前が出なかった時とか、答えることを迫られた時だ。
母の名前を忘れていたことを今日思い出した。忘れるはずのないことを忘れたと知るのは、罪を突きつけられるような感覚だ。いつから忘れていたんだろう。なぜ忘れたんだろう。
母の双子の妹が昨日亡くなった。母はいつまで生きていただろうか。いや、昨日亡くなったのが自分の母親で、今目の前にいるのが叔母だ。
僕を本当に産んだのはこの人だ。首に絡みつく指を僕は食い込ませるままにしておく。
誰が僕を産んだんだ。忘却は罪だと言われた。だからこれは償いだ。
いっそ僕の全てを罪として、全て忘れてしまおう。
僕を確かにこの世に呼び出した父の名前だけをあの滝の上の石に刻んで。
母の名前を忘れていたことを今日思い出した。忘れるはずのないことを忘れたと知るのは、罪を突きつけられるような感覚だ。いつから忘れていたんだろう。なぜ忘れたんだろう。
母の双子の妹が昨日亡くなった。母はいつまで生きていただろうか。いや、昨日亡くなったのが自分の母親で、今目の前にいるのが叔母だ。
僕を本当に産んだのはこの人だ。首に絡みつく指を僕は食い込ませるままにしておく。
誰が僕を産んだんだ。忘却は罪だと言われた。だからこれは償いだ。
いっそ僕の全てを罪として、全て忘れてしまおう。
僕を確かにこの世に呼び出した父の名前だけをあの滝の上の石に刻んで。
ホラー
公開:19/04/20 19:46
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