幸せの庭

10
8

「これ、持っていきなさい」
上京する際、母から1枚のレジャーシートを渡された。
広げてみると、美しい庭が描かれていた。
庭のシートは無機質な部屋にふわりと優しい景色をくれるだけでなく、不思議な力をもっていた。
風がそよぎ、花々が咲き、蝶が舞う。
まるで本物の庭のように、イキイキと活動しはじめたのだ。
野菜不足が続いた日は庭の隅からアスパラが顔をだし、寂しい夜には鳥たちが歌ってくれた。

月日がたち、私は彼と過ごすようになった。
今の季節は庭の上でお昼寝するのが気持ちいい。
ふと、強い風が吹き、その風は彼の背中をぐいぐい押している。
「結婚し……」
言いきらないうちに、鳥たちがさえずる。
やや強引な応援に、私は思わず笑った。

その夜、母に電話で結婚の報告をし庭のことを話すと、まったく驚かなかった。
それどころか、得意げこう言ったのだ。
「お父さんにプロポーズされたのも、あの庭なのよ」
恋愛
公開:19/04/21 11:59
更新:19/04/21 20:50
おめでとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容