内臓二十物語 第十三臓(膀胱)

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女房はこれといって取り柄はなかったが、とにかく膀胱だけはでかかった。見たことなどないのだが、確信できる。
結婚して60年、良く飲み食いするデカい女だったが、トイレに立ったのを一度も見たことがない。不思議に思って尋ねると
「膀胱がでかいから、いくらでも溜めておけるのよ」
ガハハと笑った。
女房は、体だけは丈夫だったから、自分より早くあっけなく逝くとは思ってなかった。
あの日、女房は俺の前で初めてトイレに立った。そうしてなかなか戻って来なかった。どうしたものかと様子を見に行くと、トイレの前からチョロチョロと用を足す音が聞こえる。そうして、それは数時間にも及んだ。
私はまだかと部屋とトイレの前を行ったり来たりして声かけ、そうして夜も更け、やっと音が止んだ。
「おい」
返事がないので心配になり、ドアを開けた。
トイレの床で萎んだ風船のように小さくなった女房がやけにすっきりした顔で事切れていた。
その他
公開:19/04/19 22:13
内臓二十物語 第十三臓(膀胱) 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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