奇譚【美妖師】

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私は男に飽きてくると、その美容院に行くことにしている。
「いらっしゃいませ」
「そろそろ別れたいのよ」
「かしこまりました」

私は、どこにもいる普通の女だ。なのに一度会うと虜にさせてしまうらしい。だから恋人に別れを切り出すのはいつも私の方だ。
別れてくれない男がいて悩んでいた時、この美容院に立ち寄った。担当したのが彼だった。
「じゃあ、彼との関係も切らせていただきますね」
「面白い冗談ね。お願いするわ」
どこか妖気的な目でハサミを入れ、バッサリと髪を切った。

別れを切り出してきたのは、向こうの男からだった。それ以来、男に飽きてくるとこの店に行くことにしている。

その日、美容院に立ち寄った。
「いらっしゃいませ」
「染めてみたいの」
「めずらしいですね」
彼はヘアカラーのチャートを開いて見せた。
「好みの色がないわね」
「髪は、正直ですね」

鏡を見ると、彼と同じ髪色に染まっていた。
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公開:19/04/19 17:04
美容師 奇譚

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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