「カミ」

その日、彼が珍しくオシャレなホテルのディナーに誘ってくれた。
「どや？　夜景、綺麗やろ？」
「雨降って霞んでるなー」
「雨女め！」
「あんたが雨男なんやろ！」
「珍しい事するからや！」
「自分で言うな！」
「槍が降らんだけマシやで」
「槍降ったら大惨事やわ」
私たちはケンカしているわけではない。これが普通なのだ。
「お前の好きなところ、五つ言うたるわー」
「いきなりなんなん？　きしょいんやけどー」
「まぁ、ええやんけ」
「ほな、言うてみぃ」
「サラサラのロングヘアー、ツヤツヤの黒髪、良いニオイのする髪、濡れた髪が超セクシー、束ねた髪をほどく瞬間」
「髪ばっかやん！」
「せやから、俺のカミさんになってくれへんか？」
「は？」
「は？　て、なんやねん」
「まさか今の、プロポーズ？」
「アカンか？」
「ウソやろ？」

そんな彼も今では私の旦那だ。今でも「神プロポーズやったやろ？」と自慢している。