また来世

　ワシ、九十年生きて、今一番びっくりしてる。
「結婚しましょ」
　ユーバーイーツで注文した洋食ワタナベのＡランチに付いてるサラダの横のパセリがしゃべった。
「結婚しましょ」
「……免許返納しなきゃ」
「あたしよ。よし子よ」
「よし子は三年前……」
　死んだ。漸く立ち直ったと思ったのに。
「そうよ。死ぬとき約束したじゃない。来世も一緒になるって」
「うん。でもワシまだ今世……」
「急いで生まれ変わったのよ。空きがパセリしかなくて」
「だからってお前、パセリて。ワシはどうしたら」
「ザクシィを読んで」
「え？」
「書いてあるから。たぶんなんか。こういうときの」
「お前はすぐそうやって雑誌とかテレ……あ」
　ムシャムシャ。孫のペットの兎がよし子パセリを食べてしまった。
「よし子おおお！」
　一瞬、ハンバーグの湯気がよし子の面影を縁取り、微笑んだ。
“心配しないで。また来世。あとザクシィを読んで”