接点

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最初は音だった。
食事中、夫の箸が止まる回数が増えた。美味しくない?聞いても笑って首を振る。そのうち用事を設けて時間をずらした。私が台所に居ると部屋へ引き返す程になり、隠した大量の薬を見付けた。
問い質しても、夫は頑なに沈黙し、聞こえていないと気付くのと、彼が私の出す音に、聴覚を潰す程苦しんでいたと知るのは同時だった。
後は坂を転げる様に、耐えられないものが増えるに従って、嗅覚も味覚も除かれた。別れてくれと泣いて頼まれたが拒絶した。見放せないと、離したくないと、何も伝えず被害者に逃げた夫への憤り。私は彼の介助を担う事で復讐に代えた。五感も感覚点も消え、夫は一切の外部接触に反応不能になった。

幾つも幾つも朝が過ぎ、夜が来た。
生きた人形の夫相手に、延々続けたままごとの終局。
最後に残る感覚――彼の感情も連れて行けたら良いのに。抱擁や囁きや涙の温度と同じで、私の願いも彼は受容出来ないだろう。
SF
公開:19/04/20 11:09
『欠点』の妻視点

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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