真っ黒な朝

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 玄関扉を開けると、唐突に現れた新聞配達から朝刊を手渡され、掌が真っ黒になった。部屋に戻ってしきり直し、再び玄関扉を開けるとドアノブは真っ黒になった。
 向かいのコンビニで、弁当と牛乳と雑誌を選んでいると、触れた物全てが真っ黒になった。
「これあっためます?」
「いいよ。そのままで」
 店員は仲間との会話の合間に、私を細切れに挿入した。私は不可抗力を装って、側板を膝蹴りした。
「ちょっと…」
 店員が私を睨み、私が支払ったお札三枚をつき返してきた。それは、さっき千円札の大きさに切り抜いた今朝の朝刊で、店員の指は真っ黒だった。
「間違えたよ」
 私は真っ黒な三千円と朝刊の切れ端三枚とを取り替え、取引を終えた。
 足を引きずって部屋に戻ると、尻ポケットに真っ黒なスニッカーズが入っていた。
 私は、弁当を温めている間、痛む膝を抱えてスニッカーズを齧り、三千円に相当する面積の真っ黒な朝刊を読んだ。
青春
公開:19/04/20 10:10
更新:19/04/20 10:30

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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