らしさ

「実に佐藤さんらしいね」
そう先生が頷いたと同時、目の前が一瞬揺らいで、私の身体から、らしさが飛び出していった。
先生はそのまま満足そうにニコニコと話し続けていたけれど、私は教室を駆け回るらしさを目で追うのに必死だった。
私とらしさの追いかけっこは、そうして始まった。
もともと物静かと言われる方だった私も、がむしゃらにらしさを追いかけた。

何日目かの夜、挑発気味に視界を行ったり来たりするらしさに目を這わせながら、ご飯をかっ込んでいたときだった。
「全く、落ち着きがないな。お前らしくもない」
そのお父さんの声に気を取られたのが、いけなかった。
らしさは私が目を離した一瞬をついて、すっかり消えてしまっていたのだ。
後には、ほんの少しの残り香。
私は食事中なのも厭わず席を立ち、すっかり静まり返ってしまった辺りを見回した。
もういなくなってしまったらしさが、ほんの少し、振り返ったような気がした。