「ジャック」

ジャックは劇団員である。
この度、長年の夢であった主役の座を射止めた。
それにしては表情が冴えない。
「ジツハ、ワタシ……」
ジャックにとって、その役を演じるには致命的な欠点があった。
「ダメ、ナンデスヨネェ」
そう、高所恐怖症だったのだ。
ジャックが主役に選ばれたのは「ジャックと豆の木」という演目。
もちろん豆の木に登るシーンがある。
劇場のセットとはいえ、豆の木の上は意外と高所となる。
それでもジャックはせっかく叶った夢だからと、無我夢中で豆の木に登った。
が、恐怖のあまり途中で身動きがとれなくなったのだ。
「ジャック！　何をしている？」
「タ、タスケテ……」
ジャックは自力で豆の木から降りる事ができなかった。
そして、主役からは降ろされた。
この時、ジャックの中で何かが弾けたのだろう。

「チクショウ……オボエテ、イロ」

のちにジャックは、切り裂き魔として世に名を轟かせる事となる。