妻と手を繋ぎながら。

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妻と手を繋いで歩く。

桜は満開を過ぎて葉桜に変わろうとしていた。
春の陽気。
心地よい風。
微かに舞う桜の花びら。
繋いだ手のぬくもり。
のんびりと流れる時間。

ただ、妻と手を繋いで歩く。

ふと思い出した。
母は散歩が好きだった。
幼い僕はゆっくり歩く母の歩幅に合わせる事が出来なかった。
「ただ歩くだけなんてつまらない」
そう言って母よりずっと先まで駆け出しては立ち止まり、そして母の元に引き返す。それを何度も繰り返して、少しでも早く歩いてもらおうと、母の手を取って歩いたりした。
そんな散歩の何が楽しかったのか、母の機嫌は良かった。だから仕方なく、僕は散歩につきあってあげていた。

今になって、母の気持ちがわかる気がした。
もっとちゃんと散歩につきあってあげればよかったな。いや、母にとっては、あれはあれで楽しかったのかもしれない。

そんな事を考える。

妻と手を繋ぎながら。
その他
公開:19/04/16 00:20
更新:19/04/16 15:05

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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