落差の宮の闇の桜

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私が売られたのは、務めにしくじれば奈落に落とされ二度と戻れないと噂される、人々が『落差の宮』と呼ぶ寂れた旧家でした。
春の陽射しとは対照的な新しい生活と、家族から離れた淋しさが私の心を塞ぎ、無事に一日を終える為だけに生きていました。
ある日、連日の疲れか、運んだお茶を主にこぼしてしまったのです。恐怖のあまりその場に蹲り、殺される、そう思いました。
主は私の手を掴んで離れに行き、地下室へ連れて行きました。
ここが奈落か。観念して目を開けると、そこには大きな木があり、冬の夜を凝縮したように幹も花も黒く光っています。
「これは闇の桜という。この世の暗い感情を養分に咲く。お前の負の感情も、この桜に吸わせると良い」
桜の美しさに見惚れて、主の言葉は右から左です。
「この闇の桜が、落差の宮と呼ばれる所以だ」
「やみのさくら…」
風の噂に舞う花びら。それはまるで、これからの私を勇気付けるようでした。
その他
公開:19/04/14 21:09
更新:19/04/18 12:16

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