蝶結び

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花吹雪が舞う中、人がわらわらと行き交う。陽気と同じくらいに浮かれている世間に、ため息が一つ漏れ出た。
地元のちいさな桜まつり。年一度は両親と共に訪れるのが恒例。お祭りが楽しいのは幼少期だけで、大学に進学した今現在では「連れ回されてる」だけであった。両親の右後ろを少し離れて歩く。仕方なしに並ぶ桜を眺めていた。
並木の中に赤色の紐が括られた桜があった。なんだろうと首をかしげると鈴の音が聞こえた。チャリチャリ執拗に鳴る鈴の音は、雑踏の中でもイヤに鮮明に聞こえた。
猫だ。黒猫が桜の木を駆け上っている。一番低い枝に辿り着くと、落ち着いたのか猫は腰を下ろして人の往来を眺め始めた。黄金の瞳がゆらゆら人を見ている。
おいてくわよ、母のその声に体が反射する。
「待って!」
赤い紐にはラミネートされた紙が下がっていた。

この木は川幅拡張工事の為、近日中に伐採いたします。
ファンタジー
公開:19/04/16 17:19
更新:19/04/16 19:12

MR69lock

右も左もわかりません。試行錯誤。

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