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老人は重くなった袋を引きずり、氷の張った湖を歩んでいた。
彼が湖を夢に見たのは、まだ紅顔の少年の頃。月影清かな宵闇に立ち、ぴしりと凪いだ氷面を眺めていると、足元から彼を呼ぶ者があった。
寝そべって耳を当てると、氷の内から水泡が煌めき、透明な壁に鈴の振る様な声を伴った、円い波紋を拡げた。氷の表と裏、小鳥の啄む程の、触れない口付けを交わした。
夢の湖を求め、旅から旅へ流離う間に、出会った人と人を取り持つ事が重なった。
風客は幸縁運び。赤い紐を男女の手に結び、切った端を渡せば、絆は末代まで栄える。言い伝えが彼に幾本もの紐を担わせ、年老いた彼は、いつしか仲人神と称ばれた。
どさり。氷に袋を投げ出し、老人は膝を折った。月下に傾れた紐の端から氷が融け、力尽きた体が沈む。
水の中、紐の架けた赤い橋を渡る。皺だらけの指を伸ばした先、温もりを感じた。
固く結ばれた2つの手が、静かに水底深く潜っていった。
彼が湖を夢に見たのは、まだ紅顔の少年の頃。月影清かな宵闇に立ち、ぴしりと凪いだ氷面を眺めていると、足元から彼を呼ぶ者があった。
寝そべって耳を当てると、氷の内から水泡が煌めき、透明な壁に鈴の振る様な声を伴った、円い波紋を拡げた。氷の表と裏、小鳥の啄む程の、触れない口付けを交わした。
夢の湖を求め、旅から旅へ流離う間に、出会った人と人を取り持つ事が重なった。
風客は幸縁運び。赤い紐を男女の手に結び、切った端を渡せば、絆は末代まで栄える。言い伝えが彼に幾本もの紐を担わせ、年老いた彼は、いつしか仲人神と称ばれた。
どさり。氷に袋を投げ出し、老人は膝を折った。月下に傾れた紐の端から氷が融け、力尽きた体が沈む。
水の中、紐の架けた赤い橋を渡る。皺だらけの指を伸ばした先、温もりを感じた。
固く結ばれた2つの手が、静かに水底深く潜っていった。
ファンタジー
公開:19/04/13 13:00
更新:19/04/13 13:12
更新:19/04/13 13:12
月下氷人(仲人)
月下老人と氷上人、伝承ミックス
※風客の本来の意味は、
旅人ではなく、詩人・文人です。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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