一休咄 異聞

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「では、この虎を退治しろと?」
「そうじゃ。夜な夜な夢に現れては、散々追い廻しよる」
と上様は悩ましげな様子。
しかしいくら頓知の名人といっても、屏風の虎を退治できるとは思えぬ⋯⋯。
瞑想していた一休殿は、かっと目を開いた。
「では上様、退治致しますので眠りに就いて下さい」

さっそく横になった上様は、暫くするとうーんとうなされ始めた。きっと虎に追い廻されているのだろう。
一休殿は将軍の耳に向かって語り始めた。
「上様、虎をよく見るのです」
「うむ」
「一見、虎に見えるは虎猫で御座います」
「うむ、可愛いのう」
「さ、鈴を渡しますので、猫の首にお付けなさい」
「うむ⋯⋯」

「如何でしたか?」
「さすが一休。じゃが屏風に虎が居るゆえ安心は出来ぬがのう」
一休殿はにやりと笑った。
何処からか、りーんという鈴の音が聞こえた。
「あっ!?」
屏風の虎は、いつの間にか可愛い虎猫に変わっていた──。
ミステリー・推理
公開:19/04/13 12:59
更新:19/04/13 14:25
ショートショートカレンダー 1月9日「頓知の日」 用です。すみません。

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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