神の手

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「女学校に上がった年、戦闘機の部品造ってたんだよ。そして、竹槍訓練さ。でも、竹槍でB-29が墜ちる訳ないよ。良かったんだよ、日本は戦争に負けて」
ビートルズがやって来た昭和41年。小春日和の日曜。唐突に、母は話し出した。
父の稼ぎだけでは生計が立てられない為、母は内職をしていた。その手が止まり、おやつの時間に。おやつは、大粒の甘納豆。
甘納豆の袋の中に手を入れた母の手から、兄、妹、弟の三人兄弟の手に渡された。
弟が大きな声で言った。
「お兄ちゃんだけ、数が多いよ!」
それを聞いた母は、穏やかに、
「数えてごらん」
三人は、めいめいに数えた。みんな6個。
「ほぅら、みんな同じだろ」
と返答した母の掌には、2個の甘納豆が。
驚いた妹が言った。
「すごい。神の手だ、母さんの手は」
加山雄三と誕生日が同じだと自慢していた母。先日90歳を迎えた。
そして、神の手は、紙の様な手になった。
その他
公開:19/04/14 01:01
更新:19/04/14 01:51

渡辺 隆一( 千葉県野田市 )

千葉県野田市在住の、渡辺隆一です。
小学4年生の頃から、文章を書くのが
好きで、今も、趣味で書いています。
ショートショートが、好きです。

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