内臓二十物語 第十臓(虫垂)

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吐き気とともに右の下っ腹が痛くなってきた。腹を抱えて病院に行く。
「急性虫垂炎ですね。盲腸の下に垂れ下がった虫様の突起が炎症を起こしています。切除して様子をみましょう」
手術は無事終わり、経過は順調だった。
退院の日の朝、担当医が来て虫垂部屋に案内される。たくさんのプラケースが棚に並んでいた。隣の盲チョウ部屋が少し気になった。
「腫れも引いて元気になりました。もう安心ですよ」
渡されたプラケースを覗くと、ミミズ様の虫垂が元気に這っていた。
「あの、妻が虫が苦手なもので、持ち帰るのはちょっと…」
「お預かりは出来ないので散らすことになりますが、よろしいですか?」
担当医と看護師と一緒に病院の外に出る。看護師が虫垂を取り出すと、先端に着火した。虫垂はひゅーと鳴りながら空に上がり、花火のようにパンと弾けて散った。
「退院おめでとうございます」
私は頭を下げると、晴れやかな気持ちで病院を後にした。
その他
公開:19/04/13 22:54
内臓二十物語 第十臓(虫垂) 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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