花粉屋(十二)
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病室の前で足踏みが数回。ノックに迷う拳の気配。
「どうぞ」
おっかな吃驚ドアが開き、篭もった空気が動く。
「お加減如何ですか……月峰さん」
「花粉屋で結構です、岩永百合さん」
小柄な影が椅子に落ち着く。仄かに土の匂い。
「園長から言付かって。着替えと小物類、買って来ました」
表情が浮かぶ声。元木園長なら、まともな会話になるまい。解っている事が、時に不便だったりもする。
「助かります。慣れたつもりでも、勝手が違うものですね」
息を呑む音で失言に気付く。
「歩けない程でもないのです。手洗いなど、別の支障はございますが」
ぷっと吹き出し、小さく謝る。本当に素直な人だ。
「昔から間違われました。髪を伸ばした頃もあったのですが、似合わなくて」
「伸ばしても素敵です。……あ、そうだ」
土の匂いのする、掌大の影。
「お店にあった鉢。育ててらしたかと思って」
岩永さんの声が遠い。乾ききった土が指を汚した。
「どうぞ」
おっかな吃驚ドアが開き、篭もった空気が動く。
「お加減如何ですか……月峰さん」
「花粉屋で結構です、岩永百合さん」
小柄な影が椅子に落ち着く。仄かに土の匂い。
「園長から言付かって。着替えと小物類、買って来ました」
表情が浮かぶ声。元木園長なら、まともな会話になるまい。解っている事が、時に不便だったりもする。
「助かります。慣れたつもりでも、勝手が違うものですね」
息を呑む音で失言に気付く。
「歩けない程でもないのです。手洗いなど、別の支障はございますが」
ぷっと吹き出し、小さく謝る。本当に素直な人だ。
「昔から間違われました。髪を伸ばした頃もあったのですが、似合わなくて」
「伸ばしても素敵です。……あ、そうだ」
土の匂いのする、掌大の影。
「お店にあった鉢。育ててらしたかと思って」
岩永さんの声が遠い。乾ききった土が指を汚した。
ファンタジー
公開:19/04/11 16:01
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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