帰り道の忘れ物

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「歌手になる」
そう言って家を飛び出して5年。結局、私は何も成し遂げられなかった。足りない才能を努力で補おうとしたけど、努力してる天才には敵わなかった。
新幹線を降りて、1日に数本しかないバスに乗る。何もない風景。バスを降りて、田んぼに挟まれた細い道を歩いた。中学の時も、高校の時も、いつもこの帰り道を一人で歩いていた。
私は無意識に歌を口ずさんでいた。あの頃に流行った大好きな曲だった。歌い出すと止まらなくなって、いつしか私は大声で歌っていた。途中で涙も鼻水も出てきて、上手くなんて歌えなかった。
忘れていた情熱が波のように押し寄せてきた。
目の前に、夢は叶うと信じて前だけしか見なかった、あの頃の私がいた。

「私は全力を出し切った」

あの頃の自分に胸を張って言えるの?
言えるわけない。
私の中の炎は、まだ消えてない。

家に着いたら両親に謝ろう。
私、まだ帰れない。
諦めるのは、まだ早い。
青春
公開:19/04/12 00:00

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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