花粉屋(十)
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指を零れた匙が篩で跳ねた。花粉と石松子の混合抹が舞い、明かり取りが描く光の帯を紅に染める。
「えぇ、痒い煙い。……悪いこたぁ言わねぇ、一服しな」
懐手に腹を掻きながら、刈安の着流しが机に尻を乗せる。物理質量は無きに等しくても、視聴覚を圧迫されると鬱陶しさが募る。
「午後じゅうこの様だろ。『生産性の低下』ってもんだ」
――花のくせに。日光浴に出した間か、本を横で盗み見てか、小難しい言葉を覚えた。やや下垂した襟足は、未受粉で花を終えた、出来損ないの綿毛色。
「退いてくれ。仕事中だ」
ぞんざいにあしらい作業に戻る。梨の人口受粉は峠を越えたものの、開花の遅い農園で、ぽつぽつ需要が続く。届け先で受粉を手伝う日もある。正直、疲れは頂点だ。
「佳久夜(かくや)」
「忙しいんだ、造(みやこ)」
反射で答えた自分に苛立ち、換気扇に手を伸ばす。
「馬鹿、よせ!」
焔の橙が眼前に拡がり、体が床に叩き付けられた。
「えぇ、痒い煙い。……悪いこたぁ言わねぇ、一服しな」
懐手に腹を掻きながら、刈安の着流しが机に尻を乗せる。物理質量は無きに等しくても、視聴覚を圧迫されると鬱陶しさが募る。
「午後じゅうこの様だろ。『生産性の低下』ってもんだ」
――花のくせに。日光浴に出した間か、本を横で盗み見てか、小難しい言葉を覚えた。やや下垂した襟足は、未受粉で花を終えた、出来損ないの綿毛色。
「退いてくれ。仕事中だ」
ぞんざいにあしらい作業に戻る。梨の人口受粉は峠を越えたものの、開花の遅い農園で、ぽつぽつ需要が続く。届け先で受粉を手伝う日もある。正直、疲れは頂点だ。
「佳久夜(かくや)」
「忙しいんだ、造(みやこ)」
反射で答えた自分に苛立ち、換気扇に手を伸ばす。
「馬鹿、よせ!」
焔の橙が眼前に拡がり、体が床に叩き付けられた。
ファンタジー
公開:19/04/11 10:39
石松子(せきしょうし):
着色した花粉増量剤で、
人工授粉の目印に使います。
※梨の受粉は、ほぼ手作業。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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