帰り道の忘れ物

ねえ、あなたは私の事を覚えていますか
ねえ、あなたは、もう、私の事なんて忘れてしまったの
そうよね。私はあなたにお金で買われた女。都合のいい女ですものね。用が無くなったらポイよね
でもね。私はあなたの顔を見るだけで幸せだったのですよ。
雨の中、二人で相合い傘をしながら帰ったこともありましたね。
あなたとゴルフをした事もありました。野球の素振りをした事も。今、思い出すと懐かしいわ
ねぇ～、お願いだから早く私の元へ帰ってきて。あなたに奥さんがいる事も知っている。でも、それでも私の元へ帰ってきて。ここは寒いの。ほら、雪も降って来たわ。私をこんな所に置き去りにしないで。このままでは私・・・他の誰かに盗まれてしまうわ。心も体も。あなたが思い出した頃にはどこかで骨だけになっているかもしれないわ

あれっ、またお客さんが電車の網棚に傘を忘れて行っちゃったよ。困るんだよな。思い出して取りに来てくれないかな