花粉屋(十五)-結

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玄関に鍵を差した矢先、足音が駆け寄る。
「佳久夜(かくや)さん!」
「百合さん。お久し振りです」
溌剌とした声。働き始めて一年、植物園の仕事は楽しい様だ。
「随分閉めてらしたのに、またお留守?」
旅行鞄が目に入ったか、影が肩を落とす。生んでやれなかった子が娘なら、こんな風に育てたかった。
「御挨拶に伺う予定でした。店を畳み、故郷へ帰ります」
「そんな……辞めちゃうんですか!?」
泣きそうな声。胸が切なくなる。
「造さんの御遺体が見付かったから?」

枯れた竹林を撤去、付近を捜索した結果、土砂で埋まった白骨が出、先月納骨を済ませた。
「それも理由の一つですが」
金庫で爆風を免れた蒲公英の花粉と、辛うじて命を繋いだ鉢。
「日本在来植物の、保護育成に取り組みたくて」
瞬いて、弾ける笑顔が見える様。大方また幻覚だが、花咲く庭と、少し淋しげで綺麗な青年が重なり、彼女はどんな恋をするのだろうと思った。
ファンタジー
公開:19/04/11 22:24
花粉屋シリーズ、これにて完結。 ご観覧ありがとうございました。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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