ちょき

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届いた葉書を持って、私は銀行に向かった。
「すみません、満季になったんですけど」
受付の女性に葉書を渡すと、奥に案内された。

憧れの先輩を見送るのが辛くて、卒業式の前に春を銀行に預けたその日から10年、私に春は訪れていない。

別室には、たくさんの小さなロッカーがあった。
「それでは、貯季されていた春をお返しいたします」
女性は微笑んで、ロッカーの一つに手を掛けて扉を開けた。
強い風が吹き、桜の花びらが飛び出してきて、ピンクの小魚の大群のように私を包んだ。
桜に見惚れながら、淋しさが込み上げるのを感じた。
それは10年ぶりの春の風に乗った、穏やかな淋しさだった。

外に出ると、暖かな陽気が私を迎えてくれた。淋しさはしばらく消えないけれど、大丈夫。この10年で覚悟はできていたから。
ふとポロシャツの胸ポケットを見た。
そこには、心にぽっかり空いた穴を埋めるように花びらが一枚入っていた。
青春
公開:19/04/10 02:45
更新:19/04/11 00:00

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