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 この部屋の匂いが好き。何十年にもわたる蔵書の数々。代々、受け継がれ染み付いた独特の湿気と、古びた埃っぽい古書の匂いに私は魅き寄せられてしまう。
 私は「本の虫」。そう呼ばれて久しい。そして、「本の虫」と呼ばれることに誇りすら持っている。
 お気に入りはヘミングウェイ。短編の「革命家」「殺し屋」。短編ながらなかなか読み応えがあったわ。それから長編。「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」もちろんノーベル文学賞受賞の「老人と海」も貪るように読んだわ。そう。貪るように、よ。
 冒険的で無駄のない文章が心地よい。
 もうちょっと、もうちょっと喰ってやろう。これ以上、長居をしてはならないと思いつつ、喰わずにはいられない。
 と、そこへ異様な臭いが漂ってきた。
「しまった。ついつい夢中になって喰いすぎた」
 本の虫は薄れていく意識の中で後悔したが、すでに燻蒸の煙は部屋中に充満していた。
その他
公開:19/04/09 21:42
schoo つい食べ過ぎるヘミングウェイ

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