花粉屋(八)

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遠心分離機の終了音と、実験室の開錠音が同時に響いた。
「やはり君か、月峰君」
「許可は頂きましたが、お邪魔でしたでしょうか、元木園長」
「構わんよ。君が来ると女性陣が喜ぶ」
人を餌に使うなと言えば、嫌なら他を当たれと返すだろう。研究所並みに設備の整った植物園は稀で、使用料の一環と割り切る事にしている。
丸い頬に笑窪を作り、園長は顕微鏡を覗く為、机に置いた色眼鏡を摘んだ。
「こんな無粋な物、いっそ外したまえ。掛けんでも大差ないのだろう?」
「一種の濾過器です。連中は可視光線に左右されませんので」
快活な調子に翳が差す。
「のめり込み過ぎると、身を滅ぼすぞ」
「御心配なく。奥菜の二の轍は踏みません」
角度のずれた反射鏡から見返す顔は、我ながら能面じみて滑稽だ。濃縮泥炭の上澄みが、魔女の釜底でぬらりと澱む。
「漸く尻尾を掴んだ。不死の霊薬は、必ず突き止めます」
川岸で散った煙の臭気がゆらめいた。
ファンタジー
公開:19/04/10 21:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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