第三回拉致監禁文学賞 佳作 二十六歳 設計技師

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 密室からの脱出方法はいくつかあって、俺は比較的簡単な方法を選んだ。三畳ほどのコンクリートで囲まれた部屋。高所に金網張りの小さな四角い穴が一つ。原稿用紙を切って細く巻けば、網目を通して外部と通信することが可能だ。
 反対側には扉。床との間に10センチの隙間があり、そこから食料やタライのやりとりをする。俺の糞の始末をしてる奴、ご苦労さん。足枷の南京錠は解錠したよ。筆記具を書くだけの道具だなんて思ってる間抜けのお陰さ。ありがとう。
 ペンがあれば、扉の壁面のすぐ横の劣化したモルタルを崩せる。飯を持ってきた男の手や足首あたりを串刺しにして、人質にすることもできるね。でも、そういう野蛮なことを俺はしない。この原稿を取りにきたとき、俺はもうここにはいないだろう。ヒントは紙縒りとフリクションペンと胡桃材のペントレイ。足枷の南京錠を置いておくから、柔軟な頭で、この密室の謎を解いてみるがいいさ。それじゃ。
その他
公開:19/04/10 18:59

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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