うつくしいせかい

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かわいい教え子たちが釜あげされるのを私は黙って見ていた。あんなにキラキラと透きとおっていた彼らが白くなって私を見つめている。
緊張しなくていいんだよ。
私はそう言葉をかけた。
ここは茅ヶ崎。港に近い料理屋。
同じ網にかかった生徒たちの旅立ちを見届けるのも大切な仕事。
私はエビで、彼らの教師だ。
このまま釜茹でにされると私ひとりが赤く発色してしまう。エビであることを照れているみたいでなんだかいやだなぁと思う。
私は学年主任として今回の修学旅行では引率の責任がある。網にかかったことは残念だけど、これも経験。学びだ。生徒たちと見た船上からの相模湾は最高だった。残雪の富士山と真っ青な空。満開の桜。世界はなんて美しいのだろう。
緊急の卒業式は厨房で行った。生徒たちは立派な茹で徒として、ぽん酢の春に旅立ってゆく。
私は板前の指でつまみ出されて、同じ丼に乗ることはない。
これがエビローグ。幸せな引退。
公開:19/04/10 11:47

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