市川君

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市川君て穏やかな人でした。
中1の時から付き合ってたんです。

ある日、高校2年の秋かな。助けてって電話が来て、その日から市川君は消えました。次の日、彼の席には桐野君て、暗い顔をした子が座ってました。不思議とその日から、市川君の顔は思い出せるのに、彼との思い出は桐野君に擦り変わっているのです。みんなも、私も。

桐野くんは卒業後、有名企業で働いていると聞きました。1度だけ、彼が消えた次の日、桐野君に彼のことを尋ねました。でも市川なんて知らないって、すごい変な顔されて。あの顔、口調、忘れません。とてもこの人と一緒に過ごした時間があったと思えませんでした。

今はもう私が思い出した時にしか市川君はいないんです。それが堪らなくて。確信があるのに証明できなくて。

最近では私の方がおかしいのかなって思ってしまうんです。だから誰かに話しときたくて。そうしないと本当に消えちゃう。私、もう限界なんです。
その他
公開:19/04/10 09:01
更新:20/11/11 23:00

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

104.がおー

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