花粉屋(四)

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「えっと。あれ?おかしいな」
早朝から、戸口を右往左往する影。
「この角を右で、突き当り左で、脇道に入ったら暖簾が……」
入り組んだ裏通りの、奥まった外れ。一見客は大抵迷う。いちいち声に出す人は珍しいが。
「うちをお探しですか」
「あ。……あったぁ~!」
差し指を立てると、ぱっと両手に口を覆う。
「ごめんなさい。私、植物園の」
「窺っております。中へどうぞ」
元気なお嬢さんだ。初めての店にも、堅気らしからぬ店主にも物怖じしない。植物園の園長とは懇意で、この新人さんの社会勉強が、今回の依頼。

「サングラス、目が御不自由なんですか?」
「見え過ぎるのです、色々と」
解るまいと思ったが、瞬いた眼は、妙に腑に落ちた風。なる程『掘り出し物』と太鼓判を押すわけだ。
「花粉屋さんって、種屋さんとは違うんですね」
「そうですね。案内がてら御説明……しっ」
「虫ですか?」
「たん……いえ、お気になさらず」
ファンタジー
公開:19/04/08 19:31

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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