栗鼠(リス)のタクシー

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残業で終電を逃した私の前に、一台のタクシーが止まった。
世間話をするうち、小柄な運転手は自分は栗鼠(リス)なのだと言った。猫も長く生きれば猫又になる。栗鼠の運転手、大いに結構。
「栗鼠なら尾がクッションになって良いでしょう」
「そうでもないでチュー」
沈黙が私たちを包んだ。
「何だって栗鼠だと」
「人気がありますからね、同じげっ齒類でも。何が違うのやら」
「鼠は細菌やウイルスを運ぶからでは」
「栗鼠だって」
「そうですが下水道と陽の当たる緑の公園じゃ」
「好きで鼠に生まれた訳じゃないっチューに」
嘆く鼠に、鞄に入れていたチーズ味の非常食をやった。
「うまい」
刹那、鼠も車も消え私は路面に尻餅をついた。
「まったく」
街路樹を見上げ、眩しい街灯に顔をしかめた。
ここはどこだ。
我々をおびやかす犬より強い人間に憧れ、転生してみた。が栗鼠のままなら、こんなときさっと木に登って辺りを見渡せるのに。
ファンタジー
公開:19/04/08 06:58

UKITABI

ショートショート初心者です。
作品をたくさん書けるようになりたいです。

「潮目が変わって」(プチコン 海:優秀作)
「七夕サプライズ」(七夕ショートショートコンテスト:入選)
「最高の福利厚生」(働きたい会社 ショートショートコンテスト:入選)
選出いただきました。

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