花粉屋(七)

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「確かに、お届けいたしました」
「長い間、本当にお疲れ様でした」
位牌の脇に依頼の瓶を並べ、黒衣の婦人は畳に三つ指ついた。柱時計の振り子が蝋燭の炎と同調する。直接会うのは、遺骸の無い告別式以来。
「随分思い切った事。まるで別人ね」
「人は変わるものです、生きている限り」
皮肉な台詞に顰めた眉が寛ぐ。昔から彼女には、口答えする度、『はいはい』と笑われた。隣で一緒に笑った顔は、変わらない若い顔で、長押の縁から見下ろしている。
「倒壊の危険がございます。当面、山へは近付かれません様」

時計が十六時を打った。
「列車の時間です。お暇を」
「……お待ちなさい。袖の裏」
指摘されて上げた袖に、金茶の汚れ。墓に供えた仏花の仕業か。
戸棚から粘着テープを切った彼女は、袖へ当て、花粉を移して笑った。
「ここを貴方の家と思って、いつでも帰っていらっしゃい」
まろやかな残響を耳に転がしながら、黙って門を出た。
ファンタジー
公開:19/04/09 20:15
マメ知識。服に付いた花粉は、 セロテープを使うのがお奨め。 擦ったり洗ったりすると、 返って落ちにくくなります。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。

小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍(電子/紙)を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。

☆SSGと皆様のお陰で生まれた本たち☆

ショートショート・アソート
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Ver.1~フラワリング・ライフ
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詩集
君に伝えたかったんだ。

いつも本当に、ありがとうございます!

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