花粉屋(六)
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丈成す緑のさざめきは、寄せては返す波の音――。
林立する真竹の間を、沢に長靴を浸して進む。
『山の中の海だ』そう言って笑った幼馴染は、鬱蒼と茂る青緑の、どの辺りを塒に決めたか。頭上と踝下の対流に、行きも帰りも今居る場所も、ゆっくり消失する。葉色に染まる光は、人と異なる時間を映し、異なったまま潰えていく。
清流を挟んだ対岸、細く煙が見えた。
懐かしい顔がにかっと笑い、ぶんぶん手を振る。いつまでも餓鬼臭い。笑い返して、小走りに水を渡る。風圧に煙が揺らいで散った。
真っ直ぐ屹立した青竹に、地味な土気色の尖った花。見ればそこかしこに花が咲き、踏み締めた靴底で、小骨の折れる様な乾いた音。
百二十年の周期が焉る。
地下茎から朽ちた林は、開花後三月から半年で一斉に枯れる。この林は一つの生命で、見付からない彼の広大な墓標。
形見代わりの花粉が、瓶でほろりと崩れる。
引き返した岸で、ぽつり、雨が匂った。
林立する真竹の間を、沢に長靴を浸して進む。
『山の中の海だ』そう言って笑った幼馴染は、鬱蒼と茂る青緑の、どの辺りを塒に決めたか。頭上と踝下の対流に、行きも帰りも今居る場所も、ゆっくり消失する。葉色に染まる光は、人と異なる時間を映し、異なったまま潰えていく。
清流を挟んだ対岸、細く煙が見えた。
懐かしい顔がにかっと笑い、ぶんぶん手を振る。いつまでも餓鬼臭い。笑い返して、小走りに水を渡る。風圧に煙が揺らいで散った。
真っ直ぐ屹立した青竹に、地味な土気色の尖った花。見ればそこかしこに花が咲き、踏み締めた靴底で、小骨の折れる様な乾いた音。
百二十年の周期が焉る。
地下茎から朽ちた林は、開花後三月から半年で一斉に枯れる。この林は一つの生命で、見付からない彼の広大な墓標。
形見代わりの花粉が、瓶でほろりと崩れる。
引き返した岸で、ぽつり、雨が匂った。
ファンタジー
公開:19/04/09 14:18
更新:19/04/09 17:10
更新:19/04/09 17:10
竹笋生(たけのこしょうず):
七十二節気の立夏末候
真竹の盛衰周期と竹の花
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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